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ソニーがついに本気を出す!? 立体音響技術「360 Reality Audio」の最新情報を聞いた(PHILE WEB)

【写真】人気ポップシンガー、ザラ・ラーソンによる楽曲『Talk About Love』を初のビデオ付き360 Reality Audioのコンテンツとして公開

今回はソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ(株)で360 Reality Audio(以下:360 RA)のプロジェクトリーダーを担当する岡崎真治氏、コンテンツ開発課の統括課長である鹿田英一氏と新しい制作ツールアプリケーションを担当する花田祐氏に、360 RAの現状に関連する踏み込んだ話をオンライン取材によりうかがった。

360 RAが発展してきた経緯については、筆者が過去に取材したレポートとPHILE WEBの記事を合わせて参照してほしい。

【2019年】
・ソニーが360 Reality Audioを発表:CES 2019レポート
https://www.phileweb.com/interview/article/201901/09/626.html

・スマホアプリによる360 Reality Audio体験を初披露:IFA 2019レポート
https://www.phileweb.com/news/d-av/201909/07/48380.html

・Amazon Music HD、Deezer、nugs.net、TIDALが2019年秋に(海外で)対応する音楽配信サービスを開始
https://www.phileweb.com/news/d-av/201910/16/48702.html

・ソニーのサラウンド技術「360 Reality Audio」対応楽曲、12/5からAmazon Music HDで提供開始
https://www.phileweb.com/news/d-av/201912/04/49141.html

【2020年】
・ソニーが360 Reality Audio対応スピーカーの試作機を発表:CES 2020レポート
https://www.phileweb.com/interview/article/202001/08/711.html

・ソニーが発表したコンセプトカー「VISION-S」、実は360 Reality Audio搭載:CES 2020レポート
https://www.phileweb.com/news/d-av/202001/10/49428.html

・ソニーPCLが360 Reality Audioコンテンツの制作が可能なスタジオを立ち上げ
https://www.phileweb.com/review/article/202002/19/3751_3.html

・ソニーモバイルが360 Reality Audioのハードウェアでコーダーを載せた「Xperia 5 II」を発表
https://www.phileweb.com/news/mobile_pc/202009/17/2131.html

■360 Reality Audio初のビデオ付きコンテンツを「Artist Connection」アプリに公開

ソニーの360 RAは、ユーザーの360度・全天球に広がる音場空間に音源をオブジェクトとして配置できる斬新な立体音響技術だ。その効果はスピーカーだけでなくヘッドホンでも楽しめる。

これまで日本国内ではアマゾンのスマートスピーカー「Echo Studio」を使って、Amazon Music HDで配信されている360 RA対応のミュージックコンテンツが体験できた。年初のCES 2021開催とともにソニーは360 RAを通常のステレオ仕様のヘッドホンで体験できる新しいアプリ「Artist Connection」を発表。女性ボーカリストのザラ・ラーソンによる没入感あふれるステージを配信している。

Echo Studioで再生できる360 RAのコンテンツはオーディオオンリーのものだが、ザラ・ラーソンのステージは「ビデオ付き」に進化した。岡崎氏は「TIDALやDeezerなど海外の音楽配信サービスで楽しめるコンテンツも音声のみ。2020年のCESではイベント限定で動画付きのコンテンツも披露しているが、一般音楽ファンの皆様に広く体験してもらえるビデオ付きの360 RAコンテンツを公開する機会はこれが初めて」であると新作の意義を説いている。

今回は、ウイルス感染予防対策とソーシャルディスタンスに万全の対策を施した環境でコンテンツを収録。ボーカルを中心に置いて、周囲をバンドのメンバーが取り囲むようなフォーメーションで演奏をワンカットの長回しにより撮影した。一風変わったミュージックビデオが制作された理由は「視点がアーティストの間をすり抜ける時、同時に音が素速く移動する感覚をより鮮やかに味わってもらうことも意識したから」なのだと鹿田氏が答えている。

カメラがギターやキーボードの演奏に寄ると、ボーカルが左右に振られた状態で聴こえてきたり、360 RAならではの迫力ある空間再現を存分に楽しめる。 “ビデオ付き360 RA対応コンテンツ” という今までにない体験の記念すべきトップバッターになったザラ・ラーソンは ソニーが制作した本作のメイキングビデオの中で「“音楽の未来” ってこんな感じだといいな!」と360 RA体験を絶賛している。また鹿田氏によると、制作に携わったスタッフからは「視覚情報が付くと音の定位、配置を含めて表現力が大きく向上する。これでライブ体験を作り直したい」といったポジティブな反響が返ってきたという。
クリエイターが参加しやすい環境を構築
筆者もiPhoneにArtist Connectionアプリを入れて、手元にあるヘッドホンでコンテンツを試聴した。空間の広がりがとても自然に再現される。楽器やコーラスの音源が近付いては離れるオブジェクト音源の移動感も生々しい。ソニーが推奨するヘッドホンとモバイルアプリ「Sony I Headphones Connect」を使うと、ユーザーが撮影した耳の画像を元に個人最適化したパラメータが作られる。外耳の形状により影響を受ける音の反射を考慮に入れて、複数のスピーカーから鳴っている音を仮想化。一段とリアルな没入感を引き出す。

岡崎氏によると、現在国内と欧米の音楽配信サービスが提供する360 RA対応の音楽コンテンツは4,000曲以上に増えたそうだ。昨年末にはTIDALが360 RA対応のクリスマスソングを集めたプレイリストを公開して話題を呼んだ。今後はビデオ付きの360 RA対応コンテンツもユーザーの目を引く的になるのだろうか。

■サウンドエンジニア向け制作ツール「360 Reality Audio Creative Suite」をリリース

CES 2021では360 RA対応楽曲の新しい汎用コンテンツプロダクションツールである「360 Reality Audio Creative Suite」が発表された。Digital Audio Workstation(DAW)のプラグインとして提供されるソフトウェアをソニーと共同で開発した米Virtual Sonicsが、その子会社であるAudio Futuresを通して1月末からダウンロード販売を開始する予定だ。

ソニーが360 RAの立ち上げ時から紹介してきた純正ソフトウェアの「アーキテクト」は、技術の研究開発を主な目的とした社内向けのプロダクションツールだ。「360 Reality Audio Creative Suiteには、音楽ソフトウェア開発のスペシャリストであるVirtual Sonics社の協力を得て、実際の楽曲制作環境に近いツールに仕上げた」と岡崎氏が特徴を説明する。

360 Reality Audio Creative Suiteはプロのエンジニアも多く音楽制作に利用するアビッド・テクノロジーの「Pro Tools」など、DAWソフトウェアに機能を追加するプラグインとして提供される。ツールの開発に携わった花田氏に使い方をデモンストレーションしていただいたが、「エンジニアの方々が日ごろ使い慣れているDAWのミキサーウィンドウを踏襲した」というユーザーインターフェースの操作性はとてもシンプルで直感的に扱えそうだ。クリエイターが創作活動に集中してもらえるように、とにかく取り回しはシンプルにしたと花田氏が語る。

GUIはリスニングポイントの360度を取り囲む立体空間のシミュレーターを見ながら音源のオブジェクトを配置できるように設計されている。ドラムスの低音など固定位置で鳴らしたい音源を任意の場所に配置したり、音源をダイナミックに動かしたい場合はタイムラインを選択して、Azimuth(水平方向の角度)やElevation(上下移動)のパラメータを入力していく。パラメータ設定はマウスを使ってゲージを動かしたり、数値を入力してプレビューを聴きながら詰めていく。

花田氏はサラウンド再生ができるスピーカー環境がなくても、モバイルノートPCとヘッドホン・イヤホンの組み合わせでバーチャライズされたプレビューが確認できる環境を実現することにもこだわったと振り返る。エンジニアやアーティストはPCにファイルを入れて、移動しながら360 RAの楽曲作成を進められる。

■クリエイターから360 Reality Audioコンテンツを公募するコンテストを実施

既にステレオでマスタリングが完了している音源の場合、楽曲を構成するトラック単位のパラデータを別途揃える下準備が必要になるが、あらかじめパラデータやステムデータが用意されていれば、そこからCreative Suiteを使って360 RA対応の音源をミックスダウンして容易に作り出せる。汎用性の高い制作ツールができたことで、360 RAのコンテンツ制作に乗り出すクリエイターが増えそうだ。

ソニーでは今年は全面オンライン開催となった世界最大級の楽器の見本市「The NAMM Show 2021」の開催に合わせて、プロのサウンドエンジニアに広くCreative Suiteを紹介し、360 RA対応の楽曲を制作してもらうコンテスト「クリエイター・プログラム」を開催した。応募作品の中から完成度の高いものはTIDALやAmazon Musicなどパートナーの配信サービスで公開することも検討されている。

360 RA対応コンテンツを制作できるスタジオの拡大、環境の整備や協業も含めた活動を今後さらに加速させる。今年のCESを契機に立ち上げたArtist Connectionアプリも、今後360 RA対応のコンテンツを扱うプラットフォームとして展開する計画があると岡崎氏が話している。ザラ・ラーソンの楽曲『Talk About Love』の動画付き360 RAのコンテンツは今後1年間はアプリで視聴できる。今後も360 RAに継続して注目が集まるように、スマホとスタンダードなステレオヘッドホンによる組み合わせだけで360 RAの効果を体験できる作品は、サンプル音源を含めて積極的にArtist Connectionに追加していくことが大事だと思う。

■ソニーから360 RA対応のスピーカーが2モデル登場

コンテンツや音楽配信サービスのほかに、スピーカーなど対応するハードウェアが今後もっと増えないことには360 RAの認知拡大は望み薄だろう。ソニーではスピーカーやサウンドバーを手がけるオーディオ機器メーカーのほか、スマホにタブレット、車載オーディオのメーカーにも360 RAのライセンスを提供してエコシステムの拡大を図る。
対応ハードの拡充は?
スタンダードな仕様のステレオヘッドホンでも楽しめることが360 RAの技術的なアドバンテージになるが、Sony Headphone Connectアプリによるユーザーの耳を写真に撮って「個人最適化」を行う技術については仕様をまとめたライセンスを用意して、アプリのデベロッパーにも提供する。

ソニーが2020年のCESでも試作機を披露した「SRS-RA5000」を含む、単体で360 RAの立体音場が再現できるワイヤレススピーカーが、近く発売を控えそうだ。本機よりもひと回りほど小さな「SRS-RA3000」も開発が進んでいる。RA5000はハイレゾ対応のワイヤレススピーカーの上位モデル。RA3000には圧縮音源を再生時に高音質化するデジタルサウンド拡張エンジンのDSEEが組み込まれる。

先行して欧州で商品として発表されているモデルについては一部のスペックが明らかにされている。上位のRA5000は本体に合計7基のスピーカーユニットを搭載。ユニットの向きをそれぞれに変えて360度周囲に広がる音場感を実現する。アンプの出力は55W。

SRS-RA3000は円筒型のコンパクトな本体に17mm口径のトゥイーターを2基と、80mm口径のフルレンジスピーカーユニットを搭載。フルレンジスピーカーを上向きに配置して、ディフューザーで360度方向に音の広がりを生む。2基のパッシブラジエーターを背中合わせに配置して低音を強化する仕組みを採用した、密閉型エンクロージャーのワイヤレススピーカーだ。アンプの出力は20W。カラーバリエーションにライトグレーとブラックの2色が揃う。

ふたつの製品はともにWi-Fiでホームネットワークに接続して音楽配信サービスのダイレクトストリーミングが受けられるほか、Spotify ConnectやChromecast built-in機能を活かしてスマホからキャストしたコンテンツの再生にも対応する。AIアシスタントによる音声操作はGoogleアシスタント、Amazon Alexaが選べる。AAC/SBC対応のBluetoothオーディオ対応も実現した。

スピーカーをセットした部屋のルームアコースティックに合わせて音場が自動補正できるほか、オートボリューム機能も備える。天面に設けた音符のアイコンボタンを押すと360 RAの効果を高める「イマーシブオーディオ・エンハンスメント」など充実した機能が揃う。Sony Music Centerアプリでオーディオイコライザーを含む本体設定が細かく追い込める。

どちらのスピーカーもまだ日本国内での販売に関する詳細は伝えられていないが、Echo Studioに加えてソニーの高音質な純正品でAmazon Music HDに公開されている360 RA対応の3D Musicコンテンツを早く聴ける日が楽しみだ。

■2021年は360 Reality Audioの国内本格展開に期待したい

360 RAの技術を映画やゲームの分野にも広げる計画はないのだろうか。岡崎氏は「技術的には可能だが、今は戦略としてオーディオ分野への展開に注力する段階」と答えている。アイテムとしてまずはスピーカーにヘッドホン、VISION-Sにも搭載された車載エンターテインメントシステムのスピーカーなどから360 RA対応の輪を広げる。

Dolby Atmosや空間オーディオなど、シアターの分野に名を馳せる技術や、オーディオテクニカのゲーミングヘッドホン「ATH-G1」が2020年夏に米EmbodyVR社との協業により実現したイマーシブオーディオ技術への対応など、音楽以外の分野にもイマーシブオーディオ体験は広がりつつある。

岡崎氏に聞くと「360 RAにヘッドトラッキングを技術を連結させたイマーシブオーディオ体験を実現することも技術的には可能」だというが、それならばアップルの空間オーディオに対応するヘッドホン「AirPods Max」のライバルとして、ソニーのワイヤレスヘッドホン「WH-1000XM4」や本機の後継モデルでぜひ360 RAとヘッドトラッキングを組み合わせた音楽体験を実現して欲しいと思う。ライバル同士の競争はイマーシブオーディオへの一般の関心を大いに引きつけるだろう。

2021年はソニーの360 RAがいよいよ本気を出してくるのではないかと筆者も期待している。

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