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[GDC 2021]Google マップから作られた「Untitled Goose Game」のマップは,何を目指したのか


 2019年にリリースされたインディーズゲーム「Untitled Goose Game 〜いたずらガチョウがやって来た!〜」(PC / PS4 / Xbox One / Nintendo Switch)は,ガチョウとなったプレイヤーが村に住む人々にイタズラをするという一風変わったタイトルだ。GDCでは開発段階から注目されており,2020年のGame Developers Choice Awardsでは,「DEATH STRANDING」や「SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE」などを大型タイトルを抑えて,Game of the Yearの栄冠を獲得している。

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 GDC 2021では本作のデベロッパであるHouse Houseのスタッフ,Jake Strasser氏が登壇して,「Google Maps, Not Greyboxes: Digital Location Scouting for ‘Untitled Goose Game’」と題された講演を行い,本作のレベルデザインがどのように進められたかを解説した。
 「実際にイギリスに行ったことは一度もない」と語るオーストラリア在住のStrasser氏は,イギリスを舞台とするこのゲームのステージをどのようにして作り上げたのだろうか?

「そんなフェンスはイギリスにはない」(ある)

 House Houseは7年前にゲーム開発を始めたスタジオで,創業当時は,商業的なゲーム開発の経験者はいなかったという。そのため,「Untitled Goose Game」の制作が始まった段階でもなお,メンバーがゲーム制作に熟達していたわけではなかった。実際,同社が3Dグラフィックスを用いたゲームを作るのは本作が初めてだった。
 Strasser氏が担当したレベルデザイン(この領域は多くの先行研究が積み重ねられている)でも,「直感的な作業を行っていた」と語る。ゲーム制作全体としては,ボトムアップで開発が進められており,「各人が作ったものを,どうしたらもっと活用できるか考える」という方向性で作業が進められていたそうだ。

House Houseが最初に作ったゲーム
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 本作のマップもまた,開発当初はそれほど練られたものではなかった。どちらかと言えば,ゲームに必要な要素が必要な位置に配置されただけ,という状態であり,世界設定やさまざまなコンテキストは二の次だった。
 Strasser氏が最初のマップを作るにあたって,舞台がイギリスということは意識していたが,モチーフとして主に参照していたのは「ウォレスとグルミット」だったという。この作品は美術的な資料としてだけでなく,ゲーム内で発生するコミカルなシチュエーションのアイデアも得ていたそうだ。

 こうして作られた「Untitled Goose Game」だが,2018年にデモ版が公開されると大きな反響が得られ,ここから話が大きくなっていく。具体的には,制作を支援するパブリッシャが現れて予算が付いたために,開発者達はフルタイムでゲーム作りが可能になったのだ。

「ウォレスとグルミット」は,美術資料としてはもちろん,シチュエーションも参考になった
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 ここでStrasser氏は,ステージの設計に3つの目標を定めたという。その3つとは,「独自性があること」「信憑性があること」「ニュアンスを感じさせること」だ。しかしこの目標を達成するには大きな問題があった。Strasser氏はゲームの舞台になるイギリスに住んだことはもちろん,行ったことさえなかったのだ。

 初期のステージマップをイギリスの友人達に見せて,「これってイギリスっぽい?」と聞いたところ「違う」と断言されてしまう。彼らが指摘したのは庭の仕切りとなるフェンスで,「こういうものはイギリスでは使わない」とのことだった。
 Strasser氏は,イギリスの園芸用品販売サイトを調べたうえでこの形状のフェンスを選択しているので,「イギリスのどこかにはきっと,このフェンスを使った庭があるはず」と思ったが,イギリス人が見て違和感があるということは,そのような庭園がイギリス的ではないことは間違いない。「そういった物が販売されている」ことと「それがイギリス的である」ことの間には,一定の距離があるのだ。

問題となったフェンス
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 問題はそれだけではなかった。デモ版ではおおむね庭だけだった本作のステージだが,ここにはさらに,小さな店や2軒の隣家と裏庭,いかつい作りのパブ,最後のゴールとなる鐘が追加される予定だった。これらのステージは1枚のマップとして連結され,それぞれのステージは「ダークソウル式ドア」(最初は片方から閉じられており,開くことで,それまで別のものだと感じられていたステージが連結されるドア)で隔てられることになっていた。
 かくして「それらしいステージ」を作る難度は一気に跳ね上がった。ロケーションの種類が増えたということは,それだけ「そんなフェンスはイギリスにはない」的な問題が多発し得るということだ。たとえこの問題を解決したとしても,ステージのつなげ方次第では「そんな村はイギリスにはない」的な問題が起こるかもしれない。状況的には一種の組合せ爆発が起きており,想像力だけでこれを解決するのは不可能に近い。

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ロケーションのラフ
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これらをどう配置すべきか?
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 かくして映像畑出身のStrasser氏は,現地のロケハンをすることにした。ただし,用意したのは飛行機のチケットとホテルの予約ではなく,Google マップだ。本作のレベルデザインはゲーム制作の中で継続的に続く作業で,調査,ゲームデザイン,背景美術制作の3要素が行ったり来たりしながら進む以上,「参照すべき現地」を可能な限り柔軟に設定できることが望ましかったのだ。

「ガチョウのための町を見つけた」

 調査はまず,デモ版の舞台を表現する言葉,「Village Green With Pond」(村 緑 池あり)をキーワードにしたGoogleのイメージ検索でスタートした。これで得られた画像から,モデルとすべき土地を探し出すのだ。

 最初に選んだイギリスの村は,店などの必要な要素がなかったため,Strasser氏は近くのより大きな町を調べた。こうして見つけたのが最初の町,Thaxtedだ。
 Thaxtedは交通量が多く,そのまま再現すると「ガチョウが車に轢かれること間違いなし」なのだが,Strasser氏はここでゲームに利用できる重要な発見をする。それは「幅の広い歩道」だ。Thaxtedにある雑貨屋の前にはかなり幅の広い歩道があり,そこでは露天が店開きまでしている。これをゲームでも再現することにしたのだ。

 店やその周辺のディテールを作り込んでいくには,Google マップが持つ履歴機能が役立ったという。数年にわたる「過去の町並み」が保存されているため,同じ場所に対して複数の資料が得られるのだが,これは現地へ行ったのでは得られない情報だ。

Thaxtedの中心部。これをそのまま使うのは厳しい
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幅の広い歩道と露天
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上の写真をもとにして作られた店とその周辺
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良質な「活きた」美術素材の宝庫
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 このようにして店のデザインを終えたStrasser氏は,続いて隣家の裏庭,そしてパブへとデザインの対象を広げていった。そのうえで,各ステージを結合して1つのマップにしたのだが,ここで新たな問題が発生した。こうして作られたマップは,四方に対して開けすぎていたのだ。
 ゲームマップとして考えた場合,全体が「これ以上進行不能な壁」で囲われており,かつそのマップには十分な広さがあることが望ましい。それはただ広いというだけでなく,各ステージごとに一定の奥行き(Depth)が必要だ。細い道路の両側に家が立ち並ぶようなステージでは,プレイヤーが移動する方向が制限され過ぎてしまう。

ゲームとしては問題のあるマップ
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ゲームマップの理想
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 この問題に行き当たったStrasser氏は,モデルにできる別の村を探し始めた。だがこの探索は簡単ではなく,いい雰囲気の村でも「ステージの奥行き」を確保できなかったりするといったことが続いたという。

 そんななか,ついに見つけたのがOrfordのPumpストリートだった。
 Pumpストリートはちょっと変わった街路で,なだらかな通りに,きわめて短く細い道が直角に接続し,中央に小さな緑地がある。この不思議な曲がり角は,Strasser氏が求めていた「奥行きのあるステージ」そのものだ。
 また古い港町であるOrfordは,町外れに12世紀に作られた城が建っている。これまたゲームには都合のよいセッティングで,Strasser氏は「現実とは思えないくらい,本作に必要な要素が全部ある」と述べた。

問題の「不思議な曲がり角」
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郊外には城まである
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 かくしてThaxtedをモデルとして作られた店は,Pumpストリートをモデルとした空間に移設された。これに際し,周辺の建物をPumpストリートの近隣にある建物へ差し替え,建物の色合いもThaxtedのパステルカラーからOrfordの煉瓦色へ変更した。
 興味深いのは,このとき,空いた空間を埋めるためにPumpストリートを真似て,なんの気なしに配置したガレージが,ゲーム内で大きな役割を果たすようになったことだ。ありふれたアイテムや場所を活用することが重要な本作では,現実の日常を反映して配置された建物(この場合は店のオーナーが使う車のガレージ)が,ゲームでも最も違和感なく,有効に機能する。

PumpストリートとThaxtedのハイブリッド
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ゲームの重要なギミックとなったガレージは,ゲームデザインからではなく,この背景画像から生まれた
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パブはOrfordの城を望むパブをベースとして作り直されることに
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良質な環境型ストーリーテリングに向けて

 かくしてThaxtedとOrfordをモデルにして作られたステージは,本作に独特の面白さとリアリティを与えることになった。この「独特の面白さとリアリティ」について,Strasser氏は「イギリスをモデルにするにしても,理想化された世界ではなく,生活のある世界が作りたかった」と語る。
 それはまた,ゲームにとって必要不可欠なことでもあった。上記のように,本作はあくまで日常的な世界を背景に,ありふれた事物を駆使してイタズラをすることに面白さがある。この日常に密着したユーモアは,多くのプレイヤーが直感的に愉快になれるものであり,それは舞台が現実世界に裏打ちされたものでなくては表現できない面白さだ。

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 Strasser氏は映画「シャイニング」のホテルを例に挙げ,「このホテルは現実にはあり得ない構造をしていることで有名だが,これは(スタンリー・キューブリック監督の完璧主義を踏まえれば)明らかに意図的なもので,実際,観客は画面から『何かがおかしい』ことを無意識のうちに感じ取っている。そしてそれが作品のムードに寄与している」と指摘した。
 逆に言えば,「おかしなレベルデザインからは,プレイヤーは無意識のうちに異常さを感じ取ってしまう」ということになり,これは,GDC 2021で行われた環境型ストーリーテリングに関する講演でも共通して指摘されていたことだ。

シャイニングの不思議なホテル
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 Google マップとストリートビューを駆使して大量の情報を蓄えていく(もちろんこれ以外にも町や村の歴史を調べたそうだ)ことは,「自然に現実を踏まえたデザインをしていく」メリットがあるとStrasser氏は語った。また調査対象を好きなだけ広げられ,それらをミックスさせるのも非常にフレキシブルだというのが氏の主張だ。

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 最近,環境型ストーリーテリング(あるいはビジュアルストーリーテリング)が活発に議論されるようになったが,そのために必要とされる「取材」は,必ずしも現地取材に限ったものではなく,場合によっては現地取材より優れた結果を出せる方法もあるというのは,とても興味深い指摘だ。
 もちろん,これは「日常的な風景」が深い意味を持つ本作だからこそ成り立つ手法であり,同じ日常でも,例えば料理に焦点を置いた作品や,祭りなどの非日常が中心的な役割を果たす作品では,Google検索だけで上質な環境型ストーリーテリングを成立させるのは難しいかもしれない。

 だが,場所やテーマを絞ってゲームを作ることに意義(と予算的必然性)のあるインディーズゲームにとって,本講演が示す可能性と実績は大いに参考になるのではないだろうか。

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